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光を感じる奇跡

 私たちが目にするすべてが光だ。明るい光、やわらかな光、暗い光。私は自分の本に「静かな光を求めて」というタイトルを付けたが、「静かな」という言葉はもともと音に冠するものであり、光に冠するものではない。しかし、私は時々本当に美しい「静かな光」に出会うことがある。周りの音が全て無くなるような感覚、今まで気にも留めなかった風景が、そのやわらかな光の演出で涙が出るほど美しい風景に見える瞬間。私はそんな時間がたまらなく好きだ。
 私たちは、与えられた命の中で生きている。数十年という限られた時間の中で生きている。宇宙誕生からの気の遠くなるような時間と、深淵で果てしない暗闇の中に浮かぶ地球という岩塊に乗っかって暮らしている。そして目という光を感じ取る感覚器官を持った人間として存在している。それを思うと、我々人間が何かを見ることができるということは、まさしく奇跡以外の何ものでもないのだ。私たちは、光を見ることができるという奇跡にもっと感謝しても良いのではなかろうか。
 現代の芸術はテクノロジーと合体して、実に多彩で刺激的な表現で私たちの視角を喜ばせてくれる。コンピュータやプロジェクターを駆使して、今まで見たことも無い夢のような世界を見せてくれる作品もある。私はそれらの新しい芸術を驚きと感激とともに歓迎する一方で、何気ない日常の中に「奇跡」を感じ取る気持ちを忘れたくないとも思っている。今、自分の目の前にある、手で触れられるものをじっくりと見つめたい。それが私の描く水彩画の原点だと思っている。

「水彩画 静かな光を求めて」より 2013年 日貿出版社

 

 

静かに絵を描く人、静かに絵を見る人

 絵は、本来ひとりで描くものだと思う。誰のためでもなく、何かのためでもなく、ひとりで好きな本を読むように、ひとりで好きに絵を描く。それだけで十分に意味があると私は思う。私自身、プロの画家として活動し、展覧会をしたり、講座で教えたりしているが、絵を描く時はそれが仕事であることを忘れてしまう。ただ、純粋に筆を持ち、真っ白な紙の中に自分のイメージを広げていく。溶いたばかりの絵の具が水彩紙にスーッと吸い込まれていく感じがとても好きだからだ。
 絵との関わり方は、人それぞれで良いと思うし、どれかが正しいというものでもないだろう。自分もかつては、美術史の流れの中に自分の位置を探している時期があったし、何かしらの賞をいただく事に喜びを感じていたこともあった。そこで生きがいを感じられる人はそれで良いと思う。挑戦し、競い合い、磨き合う中で生きていけば良い。
 私には、好きな画家が何人かいるが、その人たちの共通点は、ひとりで、自分のペースで絵を描いていることだ。コツコツと自分の絵を描きためている。自分の暮らしの中で、ひっそりと絵を描いている。絵が沢山たまると展覧会を開き、絵を見てもらう。特に宣伝もしていないのに、多くの人が集まってくる。世の中には、きちんと絵を見る目をもっている人、絵を見る楽しみを知っている人が少なからずいる。展覧会に何度も足を運んでくれる。そして、時に絵を求めたりもする。その画家の絵を家に飾りたいというだけではない。その画家に絵を続けてほしいという願いがこめられている。そして画家は、また一年絵を描き続ける。
 絵は、本来ひとりで描くもので、自分に向けられて描かれた絵こそ、人の心を揺らす力を持っているのだと、私はその画家を通して学んだ。
静かに絵を描く人になりたい。そして、静かに絵を見る人でありたい。

 

「水彩画 光を奏でるために」より 2016年 日貿出版社

 


 

見えない美を信じる

 私はニュースや新聞、週刊誌が苦手だ。もちろん正しい情報を届けてくれる場合も多いのだが、あまりにも悲惨な出来事や憶測と偏見で曲げられた言葉に心が傷むからだ。声には出さないとしても、私と同じように今の報道の在り方に心を傷めている人は多いのでないかと感じている。実際に起こっていることにも、そしてそれを過大に拡散するシステムにもやりきれない気持ちになる。そっとしていれば解決する問題が報道や情報により複雑になり大問題に発展していくことは少なくない。今の時代は簡単に情報を集めることも発信することもできるが、本当に知るべきこと、知らなければならないことはどれくらいあるのだろうか。紙面があるから、時間枠があるからという理由だけで小さな出来事が大きく報道されている事が多すぎると感じている。
 また、一方で報道として流れていることがこの世界のほんの一部でしかないことも私は知っている。本当に美しい心を持った人、本物の良識のある人は、けして自らそれを表に出すことはないからだ。私はきちんと自分の役割を果たしている人が好きだ。目立たなくても誰かのために誠意を込めて働いている人たち、人知れず周りに優しくしている人たち、立場の弱い人を守ろうとする人たち、心の美しさを無くさないようにしている人たち。そんな人たちがニュースにも話題にもならず、お互いに出会う事も少なくこの世界にひっそりと暮らしていることを私は信じている。山道の近くに咲いている花を見ることはできるが、道のない山の中に咲いている花を見ることはできない、でもそんな場所に咲いている花は、多分本当に美しい。私は芸術のために絵を描いているのではない。おそらくは出会う事のない、そのような心の美しい人たちが、ふと足を止めてくれるような絵を描く事。それこそ私が目標としていることなのだ。

 

「水彩画 小さな光の音楽」より 2014年 日貿出版社


あべとしゆき水彩画ギャラリー

last update; 2017.8.14

 

 

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出版のお知らせ

水彩画 光を奏でるために

~あべとしゆき色彩ノート~

2016年10月発売

水彩マスキングの可能性について詳しく書きました。作品図版も多数掲載しております。

Amazon 本体2,200円

 

水彩画 小さな光の音楽

~あべとしゆき色彩ノート~

2014年10月発売

水彩技法書第2弾のテーマは絵の具と色彩。前回同様に前半は作品図版を多数掲載しています。

日貿出版社 本体2,000円

 

水彩画 静かな光を求めて

~あべとしゆき制作ノート~ 

私にとっては初めての技法書を上梓しました。作品図版を多く掲載し作品集のような構成になっています。全国の書店で発売中です。

日貿出版社 本体2,200円

 

水彩で描く美しい日本

ふるさと東 北

表紙も含めて、あべとしゆきの作品が5点掲載されています。

 日貿出版社  本体2,500円

 

 

 

 

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